幼い頃、おじいちゃんっ子だった私に祖父がよく見せてくれた、不思議な石があった。
「願い石?」
「そう。これはね、石にかけた願いが叶うと、透明に変わる石なんだよ」
祖父がそう言って大切そうに手のひらにのせたのは、小さな白い石だった。その石は願い事が実現に近づくにつれ、濁りなく澄んでいくのだという。
それなら願い事を叶えてくれれば良いのに、と私がふくれると、ミキちゃんは横着だなあと祖父は笑った。
石は数年変化を見せなかったが、私が高校生になった頃から少しずつ透明になった。私は祖父を訪ねては、いつもその変化を並んで眺めた。
「じいちゃんは念願叶って、今頃天国で笑ってるよ」
祖父の葬儀の日。泣きじゃくる私に祖母はそう言って、願い石と古ぼけた一枚の短冊を手渡した。
『人生の限り、ミキちゃんと笑っていられますように』
祖父の達筆な字が滲まないよう私の涙を受けとめたのは、透明に光る、願い石だった。
作家:ゆた